動機: 飛行機好きの無線家として、若い頃からの空への憧れとアマチュア無線の知識が融合(大袈裟ですが)して、 昨今すっかり定着したSDR(Software Defined Radio)技術を用いたパーソナル航空レーダーを作ろうとしたのが始めでした。 航空無線(ATC, Air Traffic Control)は現在に至るも中心的にAM(振幅変調)通信方式が用いられています。 飛行機の基本構造理念として、簡潔な設計思想が貫かれています。 無線通信もしかりで、AM通信機は極めて簡単な回路構成で信頼性も高いのが特徴です。 ADS-B(Automatic Dependent Severance-Broadcast): 初期のレーダーは送信側から電波を発射して、対象物(飛行機であったり雲もあります)からの反射を捉えて、立体空間距離を平面スクリーンに表示していました。 (現在の気象レーダーも同様の原理と思われ一次レーダーと呼ばれます) 一方航空管制レーダーでは、初期は一次レーダですが、遠方のターゲットを捉えるには大出力の送信装置が必要で、構造的に空間距離を測定する関係で、 実際に高度差があるにも関わらず、同一ターゲットとしか認識できず(画面上では衝突)、精密な管制は行なえませんでした。 そこで考案されたのが、ターゲット側にも送信機を取りつけ、ベース基地局からの尋問(呼びかけ、Interrogator)に対して応答(Transponder)するシステムです。 これを二次レーダー(SSR Secondary Severance Rader)と呼び現在の航空管制に用いられています。 トランスポンダにはMode-Aと言う単純に返答を返す物とMode-Cと言う高度情報を合わせて返答するものがあります。(この高度情報は搭載の気圧高度計から得られます) 更に商用機体ではMode-Sトランスポンダが搭載されており、応答情報に高度情報と機体固有情報が含まれます。 最近は分かりませんが、以前はレーダー側が一次レーダー送信と同時に1030MHzのInterrogator信号も送信し、SSR二次レーダーを中心に一次レーダーと合成して運用していたと聞いた事もありました。 (米国では全ての航空機がトランスポンダ搭載の義務がある訳ではなく、2way-communication無線ですら必須ではありません) この様な背景で、トランスポンダ送信を応答に対してのみではなく、自立的に定期的に放送する(ADS-B Automatic Dependent Severance-Broadcast)というイデアが提言され、 FAA主導でアラスカで実験が行なわれました。(Capstone Project) この実験結果を元に、現在では全米でSSR二次レーダーと共に用いられています。 しかしながら、近年の商用トラフィックの増加と維持管理費低減を目的に、ADS-B主体のシステムに移行を始めました。 その指針に従い、2020年からは米国空域を飛行する全ての航空機へのADS-B Out(1090MHz)が義務付けられます。(AM 2way-communication無線装置は知りません) 又、又アメリカ国内に限り978MHz Out(Class-A airspaceを除く)も用いられます。 現在でも、TCAS(Traffic Collision Avoiding System)はADS-B Out(1090MHz)放送信号を用いて、自己機体の周辺のトラフィック状況を把握しています。 このシステムの信頼性は極めて高く評価されており、ATCコントローラー指示より優先されます。 このように、便利で信頼性があるADS-B(誰でも受信できる放送電波情報)を個人レベルでパーソナル・レーダーをSDR技術で構築しようとするのは自然の流れでした。 RTL USBドングルによるSDR構築: 特にRTL-SDRドングルは衝撃的でした。 頭が完全にオールド・アナログ回路の自分にとって、初段からいきなり検波で後処理をソフトウェアで行なう?との事ですが、半世紀前の頭がついてゆけるハズもなく、早々理解は諦め実戦使用となりました。 中国製の安い(数千円)USBドングル・タイプのSDRデバイスでも、ウルトラワイドバンド+オール・モード受信が手持ちのPCで構築できます。 素人(アマチュア)にとって、費用が安い事は入門時の敷居が低い事を意味し、気軽に始められる部分は航空無線と同じです。 最小の構成でも、何とか結果が得られ事実は趣味として歓迎すべき大きな利点です。 ADS-Bレーダーについては、他のWeb上にも多くの具体例と解説がありますので、ご参照下さい。 後述本稿補足でADS-B運用側からの情報を述べる事とします。 ADS-B受信アンテナ: 単純に航空機からのADS-B信号を受信して、PCでエンコード・データをプロットするだけであれば、まぁ簡単です。 しかし、少しでも遠くの機影を捉えたいと欲が出ると、それはドツボに嵌る第一歩です。 市販のSDR用USBドングルを使っている以上、そこの部分は殆ど手出しできないので、勢いアンテナの等による受信環境の改善へと導かれます。(自分は流れました) さてADS-Bの検出限界をご存知ですか? 地球を完全球体として、ざっくりと計算してみると、海抜50m高のアンテナで光学的に見える4万フィートの機影は約220NMです。 (従ってこれ以上をプロットしてサービスエリアを描いている方は表示ソフトの設定違いだと察します) 更に、ADS-B受信アンテナと対象機の間に障害(山や高層建築)があれば応じて影響が現れ、検出距離は短くなります。(計算は結構煩雑で、60歳過ぎて二次方程式解きました) その上でも、人情で、”見えるものなら見てみたい”。 アンテナ一般について: ADS-B受信アンテナといっても、基本的な考え方は他の無線アンテナ(アマチュア無線等)と受信専用である以外差異はありません。 アンテナにも色々な種類があり、目的に応じて、その特徴を生かした形式が採用されます。 最もシンプルなλ/2からイメージの様な広帯域高利得アンテナ(ログペディオリック)、スマホ内臓アンテナ等、ほぼ無限大のバリエーションがあります。 しかし共通している大事な要件は、アンテナを設置する環境(場所や位置)が、最も大切なファクターです。 まずは、アンテナは誘導体から2波長文は離して可能な限り高く設置するように工夫して下さい。 アンテナをポールで高い位置に設置すれば、結果誘導体からの距離も取れる結果になります。全周の見晴らしを確保できる位置に設置できる事が理想的です。 ADS-B用受信アンテナ: 一般的には利得(ゲイン)が高いアンテナが好まれますが、一定方向のみの感度を集中させる指向性アンテナと全方位無指向性アンテナがあります。 通常アンテナは空間の電磁波(電気エネルギー)を如何に効率よく収集するかで利得が決まります。ですから大きい程イイんです。(一般的にアナログパッシヴデバイスはデカイ方が性能がイイです。例望遠鏡) 上方方向の収集性能を削って水平方向のゲインを上げた無指向性アンテナも数多くあります。(例として5/8λGPがあります) 例えば地上滑走中の機影を捉えたければ、空港方向へ向けた指向性(ビーム)アンテナが目的に叶っていますし、周囲満遍なく機影を拾いたい場合は無指向性アンテナが向いているわけです。 理想は無指向性高利得(ハイ・ゲイン)アンテナですが、そんなもの簡単に出来ないわけです。(市販品にはないと思う) 業務用では90度づつビームアンテナを四つ組み合わせて、4信号合成して使う場合もあるようです。 私等は素人ですので、予算的に現実的な八木アンテナとダイポールアンテナの組み合わせ等となります。 1090 MHz: 1090MHzというUHF帯ド真ん中周波数とあって、一筋縄ではゆかない部分もあります。 アンテナには固有共振周波数があります。 一般的には高ゲインになればなるほど、Qが高くなりアンテナ自体での周波数選択度があがります。 アマチュア無線のように帯域がると、ひとつのアンテナで全帯域をカバー(低SWR)する事はハイゲイン・アンテナでは難しいのが現実です。 MMANA等のアンテナシミュレーターソフトで色々試すと面白いです。 1090MHzの真空中での一波長長は27.5cmです。 波長長274mmの周波数は1086MHzで、276mmでは1094 MHzです。 ±1mmが±4MHzとなり、VHF帯とは文字通り桁外れの物理長精度が要求されます。 先のQがブロードであれば、充分にSWRが低く抑えられますが、高機能アンテナだとスポット周波数とは言え(だから)、物理共振の作りこみはそれなりにシビアにならざるを得ません。 測定・調整: アマチュア無線であれば合法的にアマチュア帯域での電波発射が認められていて、送受信装置が現実的な予算で入手できる事にあります。 従ってアンテナに高周波電力を投入し直読のSWRメーターで調整を行なう事は一般的です。 一方、ADS-B1090MHzではCW電波発射は禁じられています。 実際のADS-Bアンテナでは、1090 MHzで使用可能なアンテナアナライザー等の高価な測定器が無ければ、正確な特性は得られません。 測定器が無い場合は自作アンテナを再現性のある環境を整え、相当時間データを取り比較するしか道はありませんが、ほぼ完全盲目状態です。 反対に、例えば羽田のATISであれば24時間365日休まず128.8MHzで放送していますので、リファレンスになりえます。 ADS-Bではいくら受信環境を整えても、対象航空機の個体差や天候条件によって必ずしも定量的データは採れません。 一週間連続試験で何とか相対的な傾向を得られる程度でした。 やっぱり購入: ご想像通り、最終的に1.4Gまでカバーするアンテナアナライザーを購入する事となりました。(家族への対面上、こっそりデス) AA-1400の有用性は改めて述べませんが、アナライザー導入によって1090MHz特性の視覚化が出来た事は大きな収穫でした。 導入以前は相対的に、”この構成より、こちらの構成の方が良いとか悪いとか”の程度が、”ここが落ちきらないから、全体として、こうなるんだ”と理解できるようになり、 それならば対処として、どのような手立てを取るか考えられるようになりました。 確かに高額な測定器ではありますが、G帯のアンテナアナライザーとしては比較的入手可能な製品です。 ターゲット構成: 当初より無指向性高性能ハイゲインアンテナとして、コーリニアを念頭に置き実験試作を繰り返してきました。 更に近隣のブラインド・スポットの改善を考慮して、シングル又はスタックの八木を併設し、miniADSBとBeastの組み合わせで二入力システムを構成する指針を固めました。 二入力アンテナですので、USBドングルでは構成できず(デコード後の信号をミックスします)、受信機側も相応な機器に変更をします。 多段コーリニア・アンテナ: 当初より無指向性型の高利得アンテナを考えてゆくと、ひとつの選択肢としてコーリニア型アンテナとの結論となりました。 大きな理由として、同軸ケーブルをアンテナ・エレメントとして用いるために、アルミ棒や銅線加工等の金属加工負担がなくて済む事が第一義的な理由です。 幸い多くの作例がアマチュア無線関係の方々からWeb上に上がっています。 精読すると有用な情報と相反する情報もあり、参考にするべき情報の取捨選択が必要となります。 最終的な構成図は別途記載します。 八木アンテナ: こちらは、幸いドイツのメーカーで1090MHz用ADS-B八木アンテナ(13エレで2万円位で入手可能)市販されていいるようで、それを用いる事とします。 SWRの罠: 全ての方がSWR=1.0を目指して調整を追い込んで行くと思います。 設計によっては必ず1.0に落ちる点があるとか無いとか。。。 中にはSWR=1.0でもリアクタンスが0で無い可能性もあるとか、疑問符の付く記述もあります。 定義より、SWR=1.0であればその周波数でリアクタンス成分は0であり、純抵抗値とのみとなり、その抵抗値が線路インピーダンス(例えば50Ω)と同一であればリターン・ロスは無限大でアンテナ側からの反射波は無い事になる。 これなら皆ハッピー。 が!現実はそんなに甘くない。 殆ど場合測定した場合、SWR=1.0以上の数値を示します。 何故? 現象の原因として、測定周波数で リアクタンスXがゼロでない(容量性か誘導性が残っている) リアクタンスXはゼロだがインピーダンスが基準線路インピーダンスと乖離している(50Ωに対して、50Ω以外を有している) 又は上記両方の合成結果 SWR=2.0は使い物にならんのか?: 業務用アンテナの仕様にはSWR<2.0との記述が多いようです。 SWR=2.0時の伝送効率は約89%(-0.511dB)です。 SWR=1.5なら96%(-0.177dB)です。 どう思われます? 1G辺りになると、いとも簡単にアンテナと機器間で3 dB位ロスります。 又帯域があると設計中心周波数付近でSWRが充分低くともバンドエッジではかなり悪化してしまう事もあります。 従って、1090MHzスポットであればSWR=1.5以下であれば十二分な性能と判断して構わないとおもいます。 でも、やっぱり手作りなら究極(SWR=1.0!)を追い続けたい。 基本構成までの道程: 数年前にADS-B受信を始めた頃のWeb上の多くの記事が、RTL-USBドングルに比較的短い同軸ケーブルでアンテナに接続をする構成でした。 多少の違和感を感じつつ自分も同様の構成で、長々とUSBケーブルを規格外の長さで使っていました。 特に1G帯ともなるとケーブルロスだけでも長く引き回すと結構な減衰となるので、ある意味理にはかなっていました。 が!、USB接続があまり耐候性を持っていない(家庭内での使用を前提)関係で、かなりしっかりと防水対策を施しても、所詮長期の耐久性に大きな問題が残る結果に至りました。 そこで無線屋の原点に戻り、アンテナから屋内までは3D-2Vで引き込み、そこでRTLドングルに接続する構成に変更をしました。 ケーブルロスに関しては、これも高周波受信の定番のLNAをかませる事で解決を図りました。 色々と試した結果、結局はコンベンショナルな構成に戻ったわけで、回り道をしてしまいました。 本記事を読まれている方が、そこそこの耐久性を考えておられるのであれば、USBの屋外設置は一度じっくりと考えてはいかがでしょうか。 1090MHzADS-B多段コーリニア作成の実際: 色々と試しましたが、個人的には5D系が、加工と取扱の容易さで好みです。 秋葉原で仕入れてきますが、投売りの20cmφ位に小さく巻かれた物は、経験上お勧めしません。 クセがついてしまっていて、どうやっても、真直ぐになってくれません。 調整用のオープン・スタブ用には1.5Dを使っています。 先にも述べたように、エレメントの切り出しはノギスを使用してでも長さを揃えるべきだと考えます。 後に、マッチングを取る前提でも、コーリニア自体の個々のエレメント共振周波数がバラバラでは問題が残ると想像されるからです。 (具体的にどのような障害が出るかは予想するにインピーダンスが暴れて収束点が見つからない、かな?) 最終的に同軸外部導体(網線)部分が電気長となりますが、ハンダメッキをして最終的な長さを可能な限り揃えておく必要があるわけです。 又、チューニング・マッチングを取る前提で、出来上がったコーリニアの電気共振点は、厳密には素材となる同軸ケーブルの短縮率に依存しますが、 アナライザーを使用しても±1%(有効数字3桁)なんて絶対無理です。せいぜいメーカー発表の数字(有効数字2桁)を信じて、切り出し寸法を決めてください。 例えばFujikuraの5D-FBなら0.80を信じましょう。 繰り返しになりますが、結果的に各エレメント長が揃っている事の方が重要と思います。 蛇足ですが、自分が用いた構成では、アンテナ上部(給電部の反対)は、負荷として短絡した上でトップエレメント(単なる導線なので短縮率は0.95位で、例えば共振点の変化等電気的な影響は見られない) と上部λ/4マッチングエレメントを練習を兼ねて最初に作ると良いと思います。 切り出しのコツが掴めます。(カッターの刃の厚み等) ※上端処理は、短絡負荷なし、50Ω負荷、トップエレメントのいずれかですが、共通しているのは直流的にはショートないし50Ωです。 性能向上の為にLNAをアンテナ直下に設置する場合は入力に用いられているSAWフィルターの破損防止になります。 反対に、LNA用にバイアスT電源を使用している場合は、途中に負荷(LNA)がないと最悪直流短絡を構成してしまうので、注意をして下さい。 最近のRTL-USBドングルはバイアスT電源が用意されていて、ソフトSWでOn/Offができますが、Onにしないように。 組立: 実際にエレメント芯線と外部導体(メッシュ)を交互にハンダ付けして行きますが、短絡防止を目的で、絶縁体を0.5~1mmほど残して各エレメントを作る方法が多いですが、 自分の場合は、その部分は残さずに、外部導体と同じ寸法にカットし、絶縁は秋月で見つけた、耐熱絶縁テープを用いて絶縁処理していますが、問題は無さそうです。 何れの方法でも、一段接続をしたならば、テスターでオープン/ショートが無い事を確認しながらすすめて下さい。 時間とその他都合で、図に示した構成の作成をしていません。 マッチング部分が異なるだけで、コーリニア・アンテナ自体は10本は作成しました。 経験上5段構成がインピーダンスの収まりが良いようで、実際現在常用運用していますが、すこぶる安定して、 LNA(TT@北海道氏設計)との組み合わせで、最大200NM+の機影を捉えますので、ほぼ限界性能が出ていると思われます。 又、コンベンショナルなアンテナ+LNAでの設置も耐久性に優れ、一旦設置してから二年程ですが、暑かろうが、寒かろうが、台風がこうよが、雪が降ろうが全くメンテナンス・フリーで安定稼動をしています。 今後の計画: 都内のマンション住まいの関係で、周囲は障害物だらけで、無線にはあまり良い環境ではありません。 それでも拙宅から羽田方向には少し開けていて、昔はビームアンテナを向ければクリアランス・デリバリーが地上機共々聞く事が可能でした。 ADS-Bは記した通りですが、ATCアンテナの作成も計画しています。 こちらは帯域が理想では108MHz~135MHzと結構広く、広帯域高利得となると現用(古くて朽ちかけている)のログペディの交代アンテナです。 最長エレメントが1.3m程にもなるので、何とか小型化が出来ないかと思案中です。 コーリニア設計へ 如何でしたか? 少しはお役にたてる情報があったことを願って本章を締めさせていただきます。 最後に都市部ならではの悩みと希望について記します。 問題は場所が無い! 工具(電気関係の測定器ではない)を設置する場所(大袈裟で置き場)も確保できない。 今、何とか確保できないかと算段中です。 |