第5章 航空行政後進国日本
航空行政の整備遅れに関して、パイロット関連視点で問題を考えてみたいと思います。 ・最近のHonda JetとMRJの報道(2018年初頭) ・准ATP?なる世界的に見ても極めて特異な資格 ・パイロットと空港環境を考える調布の墜落事故 ・全てが高価な日本 774人に一人 これは2017年の米国に於けるパイロット数です。(正確にはFAA発給のATP/CMR/PVTの有効Medical保持者と推察されます)一方、日本では数千人に一人とか一万人に一人とか言われています。 この差が以下の記事の正確さを欠く背景と思われます。周囲に航空関係者が居なければ、正しい航空関係報道はできないのでしょうか? 最近のHonda JetとMRJの報道(2018年初頭) ホンダ・ジェットは素晴らしい! まるでスポーツ・カーだ! 世界一の売り上げ達成! こんな見出しで、YouTubeで多くの動画がアップされています。 それらの内容の殆どが正しく、又正しくありません。 ホンダと言う企業が大きなチャレンジで航空機市場(それもジェット機)に打って出て、何とか滑り出した事は、日本人として率直に誇りと喜びを感じます。 一方三菱MRJでは色々な事情で引渡しの延期が繰り返されている。。。 業界の方ならば皆さん知っておられますが、三菱は零戦からの系譜を絶やしていません。 古くはMU-2(後のSolitaireとMarquise)、MU-300(最終的にはビーチジェット400)を世に送り出しました。今見ても綺麗な機体です。 この系譜の後に生まれたのがMRJです。 何もホンダ・ジェットが初めてじゃないんです。 VLJ(Very Light Jet)カテゴリーでホンダ・ジェットが優れているのは分かりますが、開発年次が新しければ当然と言えば当然です。 一般的に新しい物は、古いものより優れています。 何を以って、空のスポーツカーと言っているかが分かりません。 バイクで例えたら、F22ラプターがF1レーシングカーとしたら、ホンダジェットはCB125/CB250(古い!)みたいな物だと思います。 大型バス(大型旅客機)と比べれば、加速や上昇能力は良いでしょう。 一般の方の情報が少ない事を利用して、誤ったな情報展開が多いのは気にかかるところです。 准ATP?なる世界的に見ても極めて特異な資格 准定期運輸として副操縦士専任資格です。 取得条件としては事業用200時間と比較して240飛行時間が必須とされる副操縦士限定資格。 何度も記しましたが、事業用(CMR)では、金は稼げても定期運輸航空機ではセカンド・オフィサー(副操縦士)には事実上従事できません。 どう見ても、日本特有の苦肉の策の資格としか見れません。 以前はJAL自社養成課程でもATPへのCMR飛行時間積算の為にJALフライトアカデミーで飛行経験(ATP資格機長の元での飛行時間積算)を積んでいたと思われます。 現実問題として、日本で育った事業用パイロットが日本でのATPまでの途がつけられない現状があります。 JAL/ANAの自家養成課程でも、入社後のANA/JAL社員資格での渡米訓練となると、前期のCFI/CFIIでの飛行時間積算が出来ないのかもしれません。 弊害としての調布の墜落事故(パイロットと空港環境) 正式な事故調査結果が公開されているので参照下さい。(AA2017-4) 個人的な最初の事故原因の印象は、エンジン出力不足と想像しました。 真夏の東京で、滑走路上40℃近くの温度であれば、地上でエアコンを効かしているのは自然と思えます。 事故機公表の公称350馬力出力は標準環境/海面上/完全整備の条件下で発揮される能力で、一般的には諸所の条件で低下すると考えられます。 調査報告書の中では、最悪の組み合わせでは公称の半分程の出力でしかなかったと推論しています。(パイロットとしては常識です) 諸元表から全て計算できますが、該当機長はウエイト&バランスすら計算した形跡が見当たりませんでした。 最大離陸重量超過で、期待したエンジン出力も出せずに、初心者の様な操作を行い結果、失速して墜落となりました。 無くなった方には申し訳ありませんが、パイロットとして(プロであろうとなかろうと)失格です。 仮の話ですが、該当機長が”もしも”米国に生まれていたら、こんな事故は起きなかった、又は、これ程までに犠牲者を出す事は防げたのではないかと思えてなりません。 米国の空港は元々、人口密集地域を避けて立地しています。 緊急着陸が必要な場合も、比較的容易に着陸地点を見つける事ができます。 日本の東京・調布でなかったらと思わずにはいられません。 基本のひとつ、ひとつを確実に行なってこそ、安全が確保される事を示した事故例ではなかったでしょうか。 全てが高価な日本 この調布墜落事故は、別の面から考えると航空業界を取り巻く環境が事故の拡大を増長したとも考えられます。 無い物を欲しがっても意味はありませんが、日本であるが故の環境を考察する事は無駄ではないと考えます。 空港の立地が極めて悪いことが挙げられますが、日本の地理的条件では致し方ない事実です。 用地取得費用が極めて高価になり、伴う維持費の為、自然利用料高に繋がります。 一方、日本の操縦士資格についても疑問があります。 先の准定期運輸パイロットもそうですが、日本に於いて航空機運用には無線機操作資格(航空特殊無線技師)が実際には要求されます。(私的意見ですが、技師資格は不要で通信士資格ならまだわかりますが) 基本的に飛行機を飛ばすにあたり、無線による相互通信確立は殆ど必須です。 このような観点から、米国ではStudent Pilot Certificatedであっても、無線機の操作資格が含まれて居ます。(別途、資格を取得する必要はありません) 日本に於いては、ATC無線や気象レーダー操作に携わる人間に無線技師の資格が義務付けられています。 年一回の日本車の車検に当たる、耐空検査費用自体も米国であれば1~2千ドル程度に対し、日本では通信機一台についてでさえ検査費用10万円とも聞いた事があります。 自動車用ガソリンと同様で、航空機用ガソリン(100LL AV Gas)価格も日本と比べて安価です。 法規で定められている保険料も然りです。 その結果が、セスナ172の一時間当りのレンタル料が、日本で古い機体で4万円に対し米国では最新のグラス・コクピットが200ドル以下との差になって現れています。 残念ながら日本の航空行政は極めてお粗末です。 多くの部分で、日本独特の環境に拠る事も事実ですが、それ以外の要素に手を着けずに放置しているからです。 繰り返します。 500万円程の予算で日本では自家用地上単発操縦士資格に対し、米国ではCommercial Pilot Certificate/Instrument Rating/Certified Flight Instructorが取得できます。 これが航空行政後進国日本の実態です。 以下、第6章 趣味としてのパイロット へ続く |